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【書評】川島蓉子(2015)『社長、そのデザインでは売れません!』日経BP社(★★★★)
 6人の大物経営者・天才クリエイターに対するインタビュー記録をまとめたもの。デザインがテーマだが、内容的には、経営のビジョンを扱っている本として読める。本のタイトルのつけ方が上手!思わず買ってしまった。

 著者がインタビューした3人の経営者は、増田宗昭さん(CCC社長)、大西洋さん(三越伊勢丹HDG社長)、岡藤正広さん(伊藤忠商事社長)。3人のクリエイターは、佐藤可士和さん(アートディレクター)、和田智さん(カー&プロダクトデザイナー)、石井裕さん(MITメディアラボ副所長)である。
 ちなみに、インタビュアーの川島蓉子さんは、彼女のボスが岡藤社長(伊藤忠)で、本職は「ifs未来研究所」の所長である。基本的には、ライターさんなのだろうか。正体はよくわからないが、企画力が抜群に高い人とお見受けした。

 3人の社長さん(増田、岡藤、大西)に共通しているのは、部下にデザインの仕事を思いっきり任せていることだ。ただし、基本コンセプトだけは丁寧に伝えている。その徹底ぶりが、とりわけ増田さんについては群を抜いている。たとえば、有名な代官山蔦屋書店のデザインについては、完成するまでその細部は知らなかったという。その大胆な発言に、経営者としてのすごみを感じる。
 三越伊勢丹の大西さんも、売り場(社内では「お買場」と呼ぶ)のコンセプトづくりや具体的な運営方法は、部下にすべて任せている。自分の仕事を「上長と若手の調整役」に徹している。伊勢丹出身らしく、モダンでかっこいい経営者に見える。
 岡藤さんは、いつもの関西弁のノリで、部下の川島さんを煙に巻いている。ボスが女子の部下からインタビューを受けるのは、あまり気持ちが乗らないように見える。それでも、「経営課題に対する答えはすべて現場にある」、「会社経営はデザインそのものだ」と明確に述べている。このひとは、観察の才能とその解釈・応用能力に恵まれている人物だ。

 経営者によって意味するところは微妙に違っているのだが、三人とも、「広義のデザイン」を経営の真ん中に据えている。
 狭い意味でのデザインとは、商品やサービスのデザイン、ならびに建物・什器や自然環境などの店舗デザインを指している。しかし、デザインを広く定義すれば、働く場所や働き方(オフィス)のデザイン、経営のやり方(組織デザイン)を含むものである。
 残念ながら、本書の中で、著者は「デザイン」をきちんと定義していない。概念の整理と解説がやや不足していると感じるので、星が4つなのである。クリエイターの3人を含めて、6人がともに「デザインとは、未来に関わるビジョンそのもの」だと述べている。デザインと経営のビジョンについて、もうすこし概念的に関連づけた解説が欲しかった。

 3人のクリエイター(佐藤、和田、石川)は、国内外で活躍しているデザイナー(アートディレクター)である。バックグラウンドは、アートとITの領域(美大、工学系大学院卒)である。職業人としてのキャリアが異なるので、デザインの仕事に対する姿勢がそれぞれ違っている。
 美大卒のふたり(佐藤、和田)は、ソフトな産業(広告代理店のクリエイター)とハードな産業(日産とアウディの設計者)のデザイナーである。
 佐藤さんは、ユニクロやヤンマーのブランドつくりで有名になった。デザインをする対象は、目に見えないブランドである。ブランディング(コーボレートブランドのデザイン)とは、企業の歴史(伝統)を踏まえながら、新しい見せ方(革新性)を提案することだ。たぶん佐藤さんにとっては、以下のようなプロセスが、典型的なブランディングの過程となっていそうだ。
 まずは、経営者の要望に応えて対話しながら、会社の歴史を研究する。そして、天から降ってわいてくるブランド概念を提案することではなく、社内のプロジェクトチームメンバーの声に耳を傾ける。最低三年間にわたる地道な仕事が中心のようだ。ブランディングの進めかたに関しては、インタビューからは意外なことがわかった。
 
 和田さんの経歴は、カーデザイナーとして異例である。日産とアウディの両方をデザインした経験を持つからだ。
 インタビュー記事には書かれていないが、日産でヒット商品(セフィーロ、Be-1)をデザインした著者が日本を離れることになったのは、日産の会社事情からだろう。しかし、そのことが、ドイツでデザインの普遍性に気付かせるきっかけを与えることになった。
 カーデザインの起点は、発祥の地の米国ではなく、欧州のドイツやフランスやイタリアにある。つまり、温故知新(革新の中の伝統)にこそ、デザインの美しさの源泉がある。そして、日本の場合は、自動車のデザインと町の景色(社会的な環境デザイン)がフィットしていないと和田氏は指摘している。けだし、名言である。SUVに乗っているわたしは、和田さんの攻撃対象になるわけだ(でも、本田の車は快適よ)。

 さて、最後に登場するのは、MITの石井裕教授である。失礼ながら、お名前を存じ上げなかった。なんとも宇宙人的な発想で、インタビューの内容もわかったようで、よくわからない。話しっぷりがとても哲学的だった。
 ただし、納得できるのは、デザインには未来に対するビジョンが必須であること。そして、未来を設計するためには、以下の3つの力が必要なこと。出杭力(出る杭は打たれるべし)、道程力(原野に新しく道を切り拓く力)、造山力(山に登るのではなく、登りたい山を造る力)。 
 また、「石井3力」という考えも納得できる(この辺りは、デザインの話とは無関係だが)。ビジョンを実現する駆動力となるのは、屈辱感、飢餓感、孤高感である。わたしもいつも頼りにしている3つのエネルギーだ。つまり、石井さんがいうところの屈辱感=自分の能力が評価されない悔しさ、飢餓感=新しい物事に取り組みたい・実現したいという焦燥感、孤高感=アイデアを誰にも認めてもらえない寂しさ。

 ここから以降は、本書の内容とはやや逸れてしまうかもしれない。わたしの主張を入れて書いてしまう。
 6人のインタビュー対象者を、ビジネスの相手方(国籍、地域、事業分野)で分けてみると、ちょっと違った視点からデザインの次元を見ることができる。
 国内でドメスティックに事業を展開しているのは、カルチャー・コンビニエンス・クラブ(文化発信事業)の増田さん(同じ昭和26年生まれ!)。会話に出てくる地名は、代官山、六本木、青山、渋谷、神戸、エトセトラ。関西出身の増田さんの発語からは、どことなく京都や神戸の匂いが漂ってくる。地方の図書館運営にまい進していることや、事業拡張はすべて日本の素敵な場所を選んでいること。彼のデザインの起点は、日本の庭園や大規模木造住居(神社仏閣)にあるように感じる。
 大西さんの対象市場は、日本人の富裕層が中心である。しかし、伝統的な百貨店の手法とはかなり取り組み方が違っている。百貨店の「平場」で、しかも自主MDに果敢に挑戦している。インバウンド消費(中国人の爆買)には目もくれず、ひたすら百貨店が取りこぼしてきたふたつの層(団塊シニアと若い女性)に焦点を当てている。

 佐藤さんの仕事は、日本ブランドの海外進出のお手伝いや、日本的なデザインをベースにした国内企業のブランディングである。海外市場は、間接的にドメインになることもあるが、決してメインではない。ただし、佐藤さんが完成させたブランドコンセプトは、強い国際通用性があると言ってよいだろう。
 ご本人の生きざまを言葉で翻訳すると、佐藤可士和とは、広告業界(メディア)から飛び出て、制作(クリエイティブ)と商品開発の上流に上っていってしまったひとである。コミュニケーション分野でSPA(製造・加工・販売業)の領域をカバーするようになった、日本で初めてのクリエイターである。

 和田さんは、佐藤さんとは別の道を歩んできたことになる。日本から飛び出て英国に渡り、ドイツのアウディでカーデザインの仕事を見つけた。日本に戻った今は、その舞台を自動車産業に限定することなく、デザイン全般で活躍している。
 しかし、わたしの印象では、和田さんが批判するほどに、日本人のデザインの仕事に悲観することもないように思う。伝統的な工芸品などの分野では、新しいデザインが登場しているのではないのだろうか?欧州ばかりが、デザインの宝庫とも思えない。たしかに、車と家電のデザインでは完敗かもしれないが、和食(イタリア、フランス、中華料理など)やその他の建造物では、グローバルなスタンダード作品を生み出している。

 岡藤さんは、欧州のデザイン(とくに、アルマーニのイタリア)を日本に移植した立役者である。イタリアやフランスのブランドの権利を直接入手して、リスクをとることにチャレンジしたのは、店頭での観察から真の顧客を発見できた経験があったからである。日本の商社としてはじめて、中間取引(鞘取り)から出て、事業構造を垂直統合型に向かわせたのは、「利は元にあり」の原理にいち早く気付いたからである。
 国際ビジネスにおける事業デザインの肝を、「付加価値(=収益性)」と「主導権(=交渉力)」に求めている。従来の商社モデルとはちがった組織デザインを発見したのは、海外アパレルブランドとの交渉力獲得から来ている。交渉の成功要因は、最終顧客から圧倒的な支持を得るができたことだった。

 最後に登場する石井さんは、米国を舞台にいまでも活躍している「コスモポリタン・サイエンティスト」である。フラットな社会構造の中で、上下の隔たりなく、世界最高峰の才能が自由に競争している社会が米国である。
 とはいっても、米国には伝統的な文化がない。だから、真の意味でのオーセンティックンなブランドは存在していない。そのようにわたしは思っている。成功しているAppleやグーグルやスターバックスであっても、せいぜい20〜30年の歴史しかもっていない。だから、短期志向で競争的な米国社会には、フラットな組織がフィットするのである。
 それに対して、日本を含めて1000年以上の歴史を持つ文化国家には、暗黙裡に社会秩序として階層が存在している。そして、階段を上に昇れる可能性がある限り、社会的な階層の存在そのものは悪いことではないと思う。本物の芸術や価値あるブランドは、富裕層によって支えられている。

 優れたデザインは、豊かな才能のプールによって生まれる。それを生み出すのは、岡藤流に言えば、生活の「余裕」である。余裕のない社会からは、秀逸なデザインは生まれない。
 長く続くデザインを生み出すのは、付加価値の高い活動を行っている企業である。あるいは、資金を持った経営者と優秀なクリエイターが連携することで、後世に残るような良いデザインが生み出されている。そのことについては、もっと深い考察が必要なように思う。
 ここから何が言えるのだろうか?
 本書に登場する6つの事例は、企業家とクリエイターたちを単独に取り上げている。しかし、本来的には、両者がどのように結びついたときに優れたデザインの商品やサービス、あるいは事業コンセプトが生まれるのか。わずかながらでも、そのヒントについて述べてほしい。また、デザインの次元については、もっと深く整理して語ってほしいと思うのは、わたしだけだろうか?
| Kosuke Ogawa | 15:12 | - | - | pookmark |

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