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ダイナミック・プライシングの限界点
 新幹線の中でよく読む雑誌に『Wedge』がある。次号で、「変動価格制」を特集するらしい。拙著『「値づけ」の思考法』(日本実業出版社)で取り上げた「ダイナミック・プライシング」をテーマにしたいのこと。先月中旬に、吉田哲編集長から連絡があって、昨日、研究室でインタビューを受けた。

 

 吉田編集長は、研究室に来る直前に、エアラインA社と家電量販店B社の取材を終えた帰りだった。それ以外に数社を訪問してきたとのこと。各社の担当者の話を聞いてから研究室にやってきた。インタビューでは、質問の初めから価格を頻繁に変える(変動価格制)ことで失うものについて懸念を表明されていた。

 わたしは書籍の中では、大手のサービス業が変動価格制を採用している事実しか書いていない。インタビューでは、その社会経済的な背景ついて解説した。

 例えば、ダイナミックプライシングの主戦場は、航空会社やホテルの業界である。彼らが頻繁に価格を変更するようになった理由は、主として情報技術の進歩である。しかし、それ以外に大きいのは、実は取引の形態が変わったことである。

   

 かつて、航空券やホテル向けの販売は、数か月前に大手旅行代理店(JTBや近畿日本ツーリストなど)から優先的に販売するところからはじまった。エアラインの客席やホテルの客室は、原価が飲食業と同じで30%〜35%程度である。だから、卸売価格は定価の50%程度である。

 早期の卸販売で、大手旅行代理店は、25%〜30%程度の粗利が確保できる。全体の供給の約半分は、この時点で販売済みになる仕組みだった。その残りを、個人向けに高めの価格で販売していた。それが実態である。そして、旅行代理店に卸売りされたチケットは、団体客向けの「パック旅行」に組み込まれていた。

 30年ほど前に、わたしは個人旅行会社を語って、海外の有名ホテルの部屋を半値で予約できた経験がある。実は、誤って海外のホテルに連絡したことで、卸価格と業者間取引の実態を知ることになった。

  

 ところが、ネット販売の普及で、個人向けのチケットや宿泊予約が世の中の主流になった。となると、販売する側はロットがまとまらなくなる。その結果、細切れにチケットを販売することになった。しかも、販売先には、じゃらんや楽天トラベルや一休みなど、OTA(ネット旅行会社)が存在している。

 ネットでの販売では、在庫のロットが細切れで小さくなった。そして、個人からのホテルやエアラインに対する直接申し込みもある。マーケットとチャネルが多様で複雑になった。OTA間で情報共有することも可能だが、販売する側からみると、空室のままで終わると損失になる。販売業者間での競争もあるので、価格調整によって販売せざるを得なくなった。

 これが、サービス業におけるダイナミックプライシングの実態である。つまり、人工知能や需要予測によって収益を最大化しようとしても、実態はあまり儲からないようになっている。

  

 ブランド力があって独占的に販売することができれば、DPが有効に機能する。経済学が教える、独占企業による差別価格制である。たとえば、USJなどは競争上はそうした強い立場にあるから、季節別の差別価格が成功している。しかし、ビジネスホテルやレストランなど、一般的なサービス業は激しい競争にさらされている。変動価格制の実態は、それほど単純ではない。

 大手家電量販店などが、電子棚札を用いて変動価格制を導入しようとしている。電子棚札の普及でコストが下がり、変動価格は技術的には可能である。しかし、頻繁に価格を変えることは、顧客側からは「価格信頼性」に疑問を呈される。不信感を持たれて顧客離れが加速しかねない。

 落としどころは、もしかすると、ニトリやカインズが採用している「EDLP」(毎日が同じ低価格)に戻ることになるのかもしれない。消費者の側では、変動価格に対する心理的な「ストレス」に嫌気がさす可能性もある。日本マクドナルドは、原田社長時代に、地域差別価格を導入したが、その後は全国統一価格に戻している。

 いまや予測技術の進歩と消費者心理との闘いである。そのトレードオフについて、一般のサービス業でも、いまは過渡期のように思う。 

| Kosuke Ogawa | 09:18 | - | - | pookmark |

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