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【シリーズ:農と食のイノベーション(第19回)】 「日本最大の巨大ガラス室での野菜栽培の今:SARA@笠岡干拓地」『食品商業』2020年2月号
 今回からしばらく、筆者が取材した植物工場の現状を紹介していきます。植物工場が露地栽培を完全に代替することはできませんが、地球温暖化による気候変動の激しい時代に、食糧を安定供給するための重要な技術であることはまちがいありません。最初は、岡山県の干拓地ではじまった巨大ガラス室群「SARA」の事例です。現状と課題を解説していきます。
 
「日本最大の巨大ガラス室での野菜栽培の今:SARA@笠岡干拓地」
『食品商業』2020年2月号(連載19回:「農と食のイノベーション」)
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
 <リード文>
 今回から何回かに分けて、施設園芸のビジネス的な進化系を紹介します。一般には、「植物工場」と呼ばれている栽培施設です。農業生産は、大きくは露地栽培と施設園芸に分かれます。農作物の栽培を自然環境から隔離し、栽培環境(気象、土壌、病虫害の影響など)をコントロールすることで、栽培の安定と生産性の向上を達成するための方法が施設園芸です。
 栽培施設は、簡易なパイプ温室からオランダ式の大規模ガラス室まで、規模と環境の制御方法によっていくつかに分類されます。そのなかで最も進化した人工的な栽培施設が「植物工場」です。植物工場には、「太陽光型」と「人工光型」(LED使用)がありますが、技術的な解説については古在(2014)などを参照ください。
 本シリーズでは、技術的な側面ではなく、植物工場の可能性とビジネス上の課題について考えてみたいと思います。頻発する自然災害によって食糧生産の未来が脅かされている今、植物工場が脚光を浴びています。最初の事例は、岡山県笠岡市で3年前に創業した「株式会社サラ」(SARA=Smart Agribusiness Research & Alliance)です。
  
 <笠岡湾干拓地の巨大野菜ハウス群、SARA>
 日本の4大干拓地の一つが、岡山県笠岡市にあります。八郎潟に次ぐ大きさで、面積は約1200ha。農水省が約300億円を投じて1966年に始めた事業でした。約380haが未入植のまま残されていましたが、そのうちの20haの敷地に、軒高8mのオランダ式の巨大ガラス室が建設されました。総面積は約13haで、日本最大の巨大な野菜栽培施設です。
 事業の着手は3年前(2016年)。事業主体は、株式会社サラ。昭和26年と27年に生まれた3人が始めた最新鋭のハイテク野菜栽培事業です。太陽光型の植物工場で栽培されている野菜は、パプリカとトマトとレタスの3種類。
 この巨大ガラス室群のユニークな特徴は、巨大ガラス室群に熱源とCO2を供給しているバイオマス発電所が併設されていることです(写真1)。中国電力に20年固定価格で売電しているので、売電事業の年間収益は約18億円。発電施設への総投資額は55億円。それだけで採算は充分に取れるのですが、事業的に興味深いのは、野菜の生産販売事業を持続可能な発電事業で補うハイブリッド型のビジネスを野心的に試みたことです。
 ご縁があり、11月15日に、巨大ガラス室群とバイオマス発電所を視察することになりました。案内役は佐野泰三取締役COO(68歳)。食品メーカーのカゴメ元役員で、大規模トマト栽培施設を全国10箇所に作った起業家的な農業技師者です。1980年代に、米国の加州でトマト加工会社を経営していた経験を持つ佐野氏は、カゴメを退職した後、元県会議員の小林健伸CEO(67歳)と、病害虫のスペシャリスト和田哲夫取締役(67歳)の3人チームで、アジア最大のハイテク栽培施設のプロジェクトに関与することを決断しました。
  
 <栽培技術面の特徴:自動化温室>
 岡山県の瀬戸内海沿岸部は、日本で2番目に日照量が多い地域として知られています(トップは山梨県の北杜市)。また、瀬戸内海は気候が温暖で台風が来ないことでも有名です。ガラス室群は4つのエリアから構成されています。内訳は、トマト栽培棟6ha、レタス棟2.5ha、パブリカ棟3.4ha。出荷棟1haの構成です。
 佐野さんの説明によると、野菜の栽培技術面での特徴は次の三点です。
(1)レタスの栽培はほぼ無人で運営されています。発芽から収穫まで、12メートル長の細長い移動ガターに定植されたレタス苗が、ハウス内を自動的にコントロールされて移動していきます。人手が必要なのは播種エリア、移植ロボットと、自動化ラインの最後で、収穫箱詰めする作業のみ。
(2)バイオマス発電熱で温室が冷暖房されています。エネルギーコストが低減できるどころか、ハウス内へ光合成を促進するためのCO2が供給されていました。送電・送風のシステム動作もすべて自動でコントロールされています。
(3)作物別・品種別に、作業員の労働投入時間と作業場所の生産性が完全にデータ管理されています。いわゆる「ロケーション・システム」が、栽培エリアごとのハウス内環境の変化と、一人一人の労働生産性を関連づけていました。この情報は、同様な半閉鎖型ガラス施設を持つ世界4カ国の施設(仏、豪、蘭)と共有されていました。
 <販売とマーケティングが最大の課題>
 オランダの先端生産技術は、グローバルにも優位性を持っているのはまちがいないように見えました。技術的には、さらに進化・改善が進んでいくだろうと思われます。気候変動の激しい今、安定的な野菜供給基地としてサラのような大規模施設の優位性は揺るぎがないものと考えられます。問題は、収穫された大量の野菜の販売先です。アジア最大の野菜工場事業の最大のネックは、マーケティングと営業活動です。
 パプリカは、国内消費の80%を占めている韓国産品と直接的に競合します。日韓ともにオランダの品種と技術を採用しています。そのため、国際的な市場競争では価格が決めてになります。物流コストと為替相場が勝負の分かれ目になりますが、ウォン安が続いているいまは、SARAの販売事業にはやや逆風が吹いています。コスト的に日本は不利な立場にありますが、国産パプリカを要望されるお客様が多いのも事実です。
 栽培規模が最も大きいトマトの販売は苦戦しそうです。国内はすでに供給過剰気味で、佐野取締役の前職、カゴメの栽培事業も利益が出せていません。ヨーロッパから導入している品種なので、生産性と輸送性に優れてはいるものの、レッドオーシャンのマーケットで生き残れるかどうかが課題です。
 レタス事業は、フレキシブルな生産方式が可能性を感じさせます。ただし、価格競争力に疑問が残りました。同日の視察後に訪問した食品スーパー「エブリイ」(本社:広島県福山市)の店頭には、サラのレタスとほぼ同じボリュームのものが百円で売られていた。現状では、サラのレタスは1株の売価が248円です。プロモーション価格で198円。値段だけならば、消費者はエブリイの店頭で売られているレタスを選んでしまうと思われます。
 誤解を与えないために補足しておくと、帰宅後にわが家でサラダを作ってみました。食べた印象では、サラのレタスの鮮度と食味は、エブリイで購入したレタスの品質を大幅に上回っていました。問題は、高品質野菜のニーズを掘り起こせるかどうかどうかです。
  
 <事業成功のために追求すべき3つの条件>
 サラのような大規模生産事業が成功するためには、次の3つの可能性を追求すべきではないかと考えます。
 仝従の販売システムでは、メインの顧客がB2Cです。最終消費者をイメージして、チェーン小売業者を相手に戦うのは危険のように思います。むしろ加工業者やフードビジネスを狙うべきではないでしょうか?B2Bにターゲットを切り替えたほうが、規模と安定的な野菜供給のニーズにマッチしている気がしました。
 関連して、品種で差別化を目指すべきだと感じました。佐野さんが熱心に強調していたのは、パプリカやトマトの新品種の導入普及と食べ方の提案でした。新しい市場の創出がカギのように思います。差別化された商品でプレミアム市場を作り出さないと、価格競争で疲弊してしまいます。
 サラのような安定供給システムは、気候変動に悩まされる日本の農業に対して、大きな可能性を提供することはまちがいありません。その際は、天候変化や市況を織り込んだ「価格変動のマネジメント」(ダイナミック・プライシング)のメカニズム(AI)をシステムに加えて構築する必要があると考えます。
| Kosuke Ogawa | 08:42 | - | - | pookmark |

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