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(その30)「ラン活の主役、工房系のランドセル」『北羽新報』(2019年1月29日号)
 今回は、昨年秋に訪問した静岡の「池田屋」を取り上げてみました。約50年前に清水市で創業したカバン屋さんが、日本有数のランドセルメーカーに成長し、「ラン活」のブームを主導するようなった物語です。地方の小売店に夢を与えるお話でした。詳しいストーリーは、秋口にブログに三回にわたって連載されています。

   

「ラン活の主役、工房系のランドセル」『北羽新報』2019年1月29日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院)
            
 「ラン活」という言葉を聞いたことがありますか?小学生に入学する子供や孫のために、家族が総出でランドセルを早期に購入する活動のことです。
 実はわたしも、昨年6月、今年の春に小学校に入学する孫のために、楽しい“ラン活”に巻き込まれました。神戸に住んでいる長男の家族のため、わざわざ大阪のランドセル専門店「池田屋」で購入したのが、チョコレート色のランドセルでした。お値段は、税込みで6万3千円。息子たちも本人(紗楽:さら)もご満悦でした。
 後で女房から聞いて知ったことですが、息子たち夫婦は4月から各社のランドセルについて情報収集をはじめていました。カタログを取り寄せ、百貨店や専門店のランドセル売り場を訪問して、約2か月をかけてふたつのブランドに絞り込んでいました。そこに、財布のひもを緩めたジジババが登場したというわけです。
 わたしたち家族は、たまたま池田屋(本社:静岡市)でランドセルを購入したのですが、それがきっかけで同社の池田浩之社長から、ランドセルの市場動向についてお話を伺うことができました。池田さんによると、「ひと昔前は、ランドセルは10月に売れはじめて、1、2月ごろまで続くのがふつうのパターンでした。それが、いまでは5月に情報収集がはじまり、早ければ7月にはラン活が終わります」。
 祖父母がラン活に巻き込まれると、プレミアム感のあるモデルの値段が高騰します。専門家の説明によると、インターネットの普及で、「工房系」と呼ばれる地方のメーカーの情報が把握できるようになったのが、ラン活が過熱した理由として挙げられています。
 2016年に新生児の数が、戦後はじめて100万人を割り込みました(97.7万人)。ところが、少子化の中でも工房系のメーカーだけは販売数を増やしています。工房系メーカーは、手作りで丁寧にランドセルを作っています。
代表的なメーカーは、「土屋鞄」(兵庫県)、「鞄工房山本」(奈良県)、「中村鞄製作所」(東京都)の3社です。これに、小売出身の「池田屋」(静岡県)と保育用品卸から出た「神田屋」(東京都)が加わりトップ5社を形成しています。工房系の強みは、品質とブランド力です。この5社は、通常のランドセルの3〜4倍の値段(5万円から14万円)を支払ってくれるプレミアム市場をつかんできたのです。
 
 ところで、工房系メーカーがいまのように人気を得たのは、偶然の出来事が重なって起きたことです。ランドセルの市場に変化が起きたのは、2003年にセイバンが「天使のはね」を発売して、一大ブームを巻き起こしてからです。同社の開発者が、「重心を上げればランドセルが軽く感じられる。子どもの負担を減らすために肩ベルトを立たせてみたらどうか」と考えて軽量のランドセルを開発しました。ブランド名は、「天使のはね」。ピーク時には全体の半分のシェア(65万本/130万本)を握っていました。
 2001年には、総合スーパーのイオンが「はなまる24」を売り出しました。価格は約3万円で、24色から選べるカラーランドセルを売り出しました。割安でデザイン性に優れた大手企業が台頭したため、ランドセル専業メーカーの土屋鞄や鞄工房山本は、従来からの販売先を失ってしまったのです。苦境の中から見出した新しい販路がEC市場でした。
 量販メーカーも工房系でも、ランドセルの製造は見込み生産です。SNSが普及するようになってからは、ママ友たちの間で口コミがランドセルの販売に影響を与えるようになりました。その結果、「売り切れ御免」のビジネスモデルが、買い物競争を煽るようになったのです。
 さて、好調なラン活市場ですが、工房系メーカーがプレミアム商品を販売するようになって、人気商品が早期に欠品を起こすようになりました。そんな中で、池田社長の見通しでは、「そろそろラン活に変化の兆しが見えています」。それほどまでして、品薄で高額な商品を買う必要がないと考えるファミリーが増えているらしいのです。「ラン活離れ」が始まっているのかもしれません。

 

| Kosuke Ogawa | 12:03 | - | - | pookmark |

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