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【シリーズ:農と食のイノベーション(第2回)】 「農産物取引プラットフォーム企業:プラネット・テーブル(株)」『食品商業』(2018年9月号)
 連載の第二回は、8月中旬に『食品商業』で原稿が発表されています。脱稿後に、スカイアグリの大久保さんから若干の修正が依頼がありました。ゲラの修正には間に合わなかったのですが、本ブログの原稿では、修正後のものをアップすることします。大久保さん、すいませんでした。
「農産物取引プラットフォーム企業:プラネット・テーブル(株)」    (V3:20181008)
『食品商業』(シリーズ第2回:農と食のイノベーション)2018年8月号
 <3つの事業ユニット>
 第一回では、外資系のファンドマネージャーだった菊池紳氏が、「プラネット・テーブル株式会社」を起業した動機を、日本の農業に立ちはだかる「4つの欠落」という概念で説明しました。新規に就農した若者が農業の現場で直面する4つ壁とは、つぎの4つでした。
  畑ではおいしい、熟した野菜が市場には出荷できない。
  地方の出荷団体で共撰共販をすると、誰が作ったものかわからなくなる。
  小売店や飲食店からフィードバックが全くない。
  農産物を作る側には、最終的な価格決定権がない。
 日本の農産物流通システムでは委託販売が主流です。基本的に値段は相場で決まります。結果として、中小規模の農家のほとんどが、長期の事業計画が立てられない状態にあります。企業経営として農業を営むためには、上記の4つの課題を克服する必要があります。そこで、農家と産地を支援する取引モデルを着想した菊池さんたちは、3年前(2015年8月26日)にベータ版で事業を開始します。
 以下では、プラネット・テーブルの事業モデルを説明していくことにします。
同社のビジネス・ユニットは、物流の「SEND」、商流の「SEASONS!」、決済の「FarmPay」の3つから成り立っています。中核事業は、物流ユニットのSEND(センド)です。これは、地方の中小規模農家と都市部の独立飲食店をつなぐ取引プラットフォームです。
 同社のHPでは、SEND(センド)の機能を簡潔に述べられています。
「SENDは、『走るファーマーズマーケット』。生産者にとっては、都市部にある『配送センター』として、シェフにとっては『自前の産直食材庫』としてご活用していただける、直接取引・配送プラットフォームです」(https://send.farm/、2018年3月24日のアクセス)。ちなみに、「SEND」というサービスの名前は、「鮮度」(新鮮な)と「運ぶ」(英語で)の意味をかけています。
 
 <SENDの顧客と仕組み>
 農産物の「送り手」は、就農してから10年〜15年、平均年齢40歳半ばの若手農家たちです。多くは、多品種少量生産で野菜を栽培しています。プラネット・テーブルでは、SENDの仕組みを使って、彼らが作った特徴のある農産物を、都市部で店を開いているフレンチ・イタリアンのレストランに届けます。農産物の「受け手」の側も、生産者と同じくらい若い40歳代のシェフたちが中心です。
 同社の際立った特徴は、農家が栽培した野菜を全量買い取ってくれることです。そして、野菜の値段(=農家の取り分)は、シーズン固定の契約になります。通常の市場出荷では、農家の手取りは市場価格の50%程度にしかなりません。ところが、SENDを通して荷物を送ると、レストランが支払った金額の80%が農家の手取りになります。しかも、Farm-Pay(決済システム)を利用すれば、出荷とほぼ同時に入金が完了します。
 中間マージン(約30%)がカットできるのは、食品スーパー「エブリイ」(本社:広島県福山市)と同じで、「全量買い取り契約」を採用しているからです(拙稿「食の製造小売モデル(下):売り切れ御免で鮮度売る」『日経MJ』(2017年6月18日号)で紹介)。畑で獲れる農産物を丸ごと、規格外品(20〜30%)も込みで、プラネット・テーブルが買い取ります。農家にとっては、選別しないままバルクで出荷することで、出荷準備の手間(時間と労力)も省けます。
 収穫後は即時に出荷できるので、買い取る側にとっては、鮮度の良い野菜が入手できることになります。市場取引では収穫後の3〜5日後になりますが、SENDを利用した場合、翌日には注文した野菜が厨房は届きます。現在、全国に散らばる農家は4600軒。「JAに所属しながらうちや他にも出荷してくれる意欲のある”ハイブリッド農家”さんたち」(菊池さん)。
 SENDを利用している農家さん(千葉県緑区)を訪問して、経営者の大久保昇さん(就農5年目)に実際のところをたずねてみました。10年前まで土木設計事務所に勤めていた大久保さんは、脱サラをして、コールラビ、レッドキャベツ、茹で用落花生などを栽培しています。SENDの取り扱い比率は、年間を通して生産量全体の約10%でした。
 「プラネット・テーブルさんには、偏差値(品質)で55から65の商品を出荷しており、こちらの提示額で引き取ってもらっています。他の出荷先より10%〜20%ほど高い値段なのですが、物流費も負担してくれています」(大久保さん)
 菊池さんの指摘は、その通りでした。意欲的なハイブリッド農家の大久保さんの出荷先は、近くの直売所(販売シェア約40%、JA、民間)、農業総合研究所(シェア30%、都市スーパー)、野菜専門店(シェア10%、希少品など)に分散されていました。
 なお、需要者側のレストランは、主として都内の環状7号線内に5750軒あります。取り扱い店舗数は、この半年で1100軒ほど増えています。「メイン顧客は、創作イタリアン料理やバルです。平均年齢45歳くらいのシェフたち」(菊池さん)。
  
 <起業から3年間の実績>
 2015年のシステム稼働以来、SENDの利用者は、主として口コミで登録者数が順調に増えています。生産者にとっては全量買い取り制度と価格的な優位性が、既存の流通にはないメリットなのでしょう。
 プラネット・テーブルのビジネスモデルが、「地理的に散らばっている多くの中小規模の農家と、都市部に集中している独立系のレストランをつなぐ」という、一見してむずかしい宿題に正答を与えることができたのは、以下の3つの理由からと思われます。
第一番目に、需要者側をイタリアン・フレンチ・創作料理等のレストランに絞り込んでいるからです。特徴があるとはいっても、レストランで使用する食材には、業種やメニューに応じた一定のパターンがあります。一戸一戸はそれぞれ小さな農家であっても、20軒くらいをまとめてしまえれば、ロットが大きくなり物流も効率はよくなります。
 菊池さんいわく、「食材ごとに発注量がまとまり、それをデータベース化できれば、5000軒分のレストランを束ねる食材別の需要予測は、それほど難しくはありません」。その結果、流通段階で廃棄になる食品ロスはごくわずか。通常のフードロスが20%ほど出るのに対して、同社のロス率は出荷量のわずか0.88%です。予測精度が高まり流通コストが20%ほど低減できたおかげで、その分がすべてお金に化けているのです。競争優位の源泉もここにあります。
 二番目は、自社でトラックを保有して、「ハブ」と呼ばれる物流センターを運営しているからです。産地から受け入れる農産物は、選別前でサイズもばらばら。それを小分けにしてルート便に乗せるわけです。レストランに納品する際には、トラックドライバーが営業部隊の役割も果たします。レストランは、スマホから発注をかけますが、注文を取りに来たドライバーからも「提案食材」の営業を受けられます。ドライバーが営業を担う機能(ヒューマンシステム)が、需要予測の外れ(3%程度)を、帳消しにしてくれるわけです。
 三番目は、すでに述べたように、需要予測にデータサイエンスの手法を用いていることです。そのことで、予測精度が格段に高まっています。AIや予測科学のおかげで、市場(委託仕入れ)とは違って、買い取り契約が成立するわけです。
  
 <菊池さんが描く農業の未来>
 インタビューの際に、「どうしてこのビジネスモデルが成り立っているのですか?」と菊池さんに質問してみました。菊池さんの答えは、やや哲学的でした。「秘訣は、データサイエンスとフードサイエンスを駆使して、需要を最適化しながら同時に生産の最適化も実現できていること」。
 仕組みとしては、シェフたちの用途(メニュー)を食材に展開して、集計して(数をまとめて)生産者に伝えることなのだろうと感じました。わたしの解釈は、プラネット・テーブルの本質は、アマゾンがはじめた「協調フィルタリング」(好みが似たようなひとは、似たような人が買った本を注文する傾向がある)を料理の世界で応用したものなのではないのか。ビジネスの肝は、「走る保冷庫」と自らが特徴づけているように、最適な自社物流のデザインにあるように思います。
 近い将来、農産物取引のアマゾンになるつもりなのかもしれません。現在、従業員は約40人。平均年齢が32歳の若い企業でした。
| Kosuke Ogawa | 16:20 | - | - | pookmark |

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