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【寄稿文】「製造小売業への道を開き、食の全機能・サービス提供企業へ」『食品商業』(2018年新春号)
 『食品商業』(商業界)から、2018年の新春号で、「食品スーパーの経営課題、総ざらい」という特集を組むので原稿をいただきたいとの依頼をいただいた。締め切りまで二週間しか余裕がない。それでも、引き受けることにした。元同僚の嶋口先生の教えの通り、原稿依頼は原則として断らない。

 

 特集テーマ:2018年、スーパーマーケットの経営課題
  *「SMの原点を見直す:食卓の未来を透視する」

 (*オリジナルタイト、文章は、提出した原文通りに直してある。発表されたものは多少文面が異なっている)

 

 『食品商業』2018年新年号

 文・小川孔輔(法政大学大学院)

 

 <製造小売業への道を開き、食の全機能・サービス提供企業へ>

 阪急グループの創始者である小林一三の評伝の中に、つぎのような記述がある。
 「小林は、『どこよりもよい品物をどこよりも安く』という方針を実現するため、直営・傍系の工場をつくるなど、様々な工夫を試みていた。阪急マーケット時代の1927年1月28日、直営の製菓工場を北区小深町の阪急電鉄高架下に設置した。(中略)また、製菓工場内の一部に阪急製薬所を創設し、阪急共栄薬を製造させた」(老川慶喜(2017)『小林一三』PHP、249〜250頁)
 ダイエーの創始者、中内功の「良い品をどんどん安く」のコピーの原典は、小林一三の「どこよりもよい品物をどこよりも安く」という言葉である。神戸生まれの中内は、子供のころに尊敬する小林一三の商売をまじかで見ていた。当時の百貨店は、評伝が示す通り、製造小売業だったのである。不足の時代にあって、思うような価格と品質で商品を仕入れることができなかった小林は、窮状を打開するために自分たちで工場を作り、要求通りの品質と値ごろ感が実現できるよう努力していたのである。
 中内がのちにテレビの商品開発で松下幸之助(現PANASONICの創業者)と対決し、海外で牧場を経営するようになったのも、値ごろ感のある商品を消費者に提供するためだった(石井淳蔵(2017)『中内功』PHP)。「利は元にある」と考えたわけだが、そのビジネスモデルの原型は、小林一三がはじめた阪急百貨店の経営にあったわけである。

 翻って、いまの日本のスーパーマーケットを見ていると、小林一三や中内功がもっていた社会変革と商売への情熱が感じられない。二人の評伝は、お客様に対する奉仕の精神に満ち溢れている。いまこそ日本の食品小売業は原点に回帰すべきではないだろうか。

  

 <「後方統合」と農業分野への参入>
 スーパーマーケット以外の業態は、20年前から生産段階に関与しはじめている。21世紀の初頭に業績を伸ばした小売業は、例外なく垂直統合型の小売チェーンである。その代表選手が、ユニクロとニトリと無印良品である。同じ時期に、食品業界でも国内外で直営工場を所有する企業が登場した。そして、農産物の調達で契約栽培を選択するフードチェーンが誕生した。サイゼリヤ、ワタミ、モスバーガー、幸楽苑や日高屋などである。
 しかしながら、スーパーとコンビニだけは、農業分野や加工段階に直接関与することはなかった。その理由は、大きくわけてふたつである。第一に、農産品の供給過剰の状態がつづいていたからで、国内外から農産品を調達することが容易だったからである。二番目は、原材料の調達において、国内では取扱量が多い卸市場を経由して、海外では大手商社に依存することで、低価格で安定した品質の農産品が確保できた。自前で調達ルートを開拓する努力は相対的に効率が悪かった。
 また、物流効率の視点からは、適地適作で安価な農産物が調達できていたから、国産でも海外調達でも、遠くから運ぶことが理にかなっていた。エネルギーコストが安価で、物流に従事する人間も容易に確保できていた。しかし、この条件は崩れかけている。物流費の高騰で、農産物とりわけ重量野菜が運べなくなってきている。地球温暖化や天候不順などの影響で、安価に大量に調達できていた農産品が安定的に供給できなくなっている。

 

 <物流費の高騰が産地移動を促す>
 実際に、このところ野菜の消費地への移動が起こっている。葉菜類のキャベツやレタスは、栽培適地の愛知や長野で作られていたが、いまは首都圏近郊に産地が移っている。ニンジンや大根などの根菜類などは、物流費の高騰で遠隔地に輸送するためのコストが量産のメリットを上回ってきている。原材料を加工するための域内ロジスティックコストが無視できない。また、農産品を移動して加工するため、中間で廃棄ロスが多量に出てしまっている。これも、農産加工品の売価が割高になる原因になる。
 小括である。スーパーマーケットの店頭を支える生鮮品について、チェーンが規模拡大するにつれて、調達先を地域(ローカル)から全国(ナショナル)へ、そして、近年は海外(グローバル)に拡大してきた。しかし、食品産業をとりまく環境変化はそれを許さなくなってきている。また、調達先が海外や国内の大規模産地に偏ると、商品供給面から差別化ができなくなる。価格で勝負の先には、同質化競争による「低収益の罠」が待っている。
 付加価値をつけて利益を生み出そうとするなら、独自の調達先を開拓するために、農業生産に関与せざるを得ない。そして、加工段階を自社のサプライチェーンに統合する道を選択することになる。具体的に取り組んでいる企業としては、ローカルスーパーのエブリイとヤオコーを上げることができる。エブリイは、地元の広島県世羅で、二年前に自前の有機野菜農場を拓いた。ヤオコーは、自社運営で農業生産(葉菜類)に取り組み始めている。また、食品スーパーではないが、コンビニエンスストアのローソンは、全国23カ所に自社農場(ローソンファーム)を所有している。2018年末までに、全国に散らばるローソンファームは、40カ所に増えることになっている。イオン(アグリ創造)も同様な形で農業生産への取り組みを始めている。

 

 <マスマーケティングとチェーンスト理論は今でも正しいのか?>

 歴史を振り返ってみよう。約70年前、日本の小売業は米国からチェーンストア経営を、大手メーカーはマスマーケティングの手法を学んだ。この2つの概念は、ツイン(双生児)の関係にある。実際的にも、全国チェーンと大手メーカーは、手と手を携えて成長してきたが、この関係は微妙に変化するかもしれない。というのは、グローバル一辺倒(全国一律)の調達方法が、部分的にはローカル(地域)に戻っていくからである。

 

 <<図表1 アメリカにおけるマーケティングの三段階>>(省略)

 

 図表1は、マーケティング史家のテドローの著作からの引用である(テドロー(1993)『マスマーケティング史』ミネルヴァ書房)。モノが運べなかった時代( 分断の時代)、販売先は地域ごとに隔絶していた。狭いエリアごとに分断されていた市場が、交通網の発達と大量生産の技術が確立することで、全国市場に統一される( 統合の時代)。
 テレビや新聞などメディアの普及で、シェアの大きなナショナルブランドがローカルブランドを駆逐する。大衆の支持を得たNBメーカーが差別化のために複数のターゲットに向けて別ブランドを立ち上げる( 細分化の時代)。そのあと、グローバリゼーションが加速し、均質な消費者市場が全世界に広がるという「マーケティングの歴史物語」が信じられてきた。実際の食の世界は、それではどのように推移しているだろうか?

 

 <チェーン小売業の仕組みを見直す>
 このストーリーは、ふたつの方向からシナリオの書き換えを求められている。最初の要因は、持続可能な社会を実現するために、環境を保護するとともに健康で安全な食品を消費者に提供しようという社会の変化である。二番目の要因は、世界共通・全国一律に同質な商品サービスを提供するための生産と販売の仕組みを変えようという企業側の動きである(ゲマワット(2009)『コークの味は国ごとに違うべきか』文藝春秋社)。
 農産物の生産と調達については、誰しも認めるように、ふたたび不足の時代が到来している。商品政策面では、同質化した小売市場での激しい競争への対応で、差別的なMDと業態開発が求められている。食品小売業でこの先、急速にEC化率が高まるとは思えないが、消費者が店舗小売業に求めるニーズは、従来とは明らかに変わってきている。
 図表2は、対照的なふたつの小売業のモデルを示したものである。左の列は、戦後日本の小売業が米国から学習した標準的なチェーンストア経営のモデルである。仕入れと販売の分離、チェーンストアが守るべき3つの標準化原則、合理的で機能的なショッピングを実現するためのセルフサービス方式。しかし、この組み合わせだけでは、消費者を店舗に引き付けられなくなっている。

 

 <<図表2 対照的な小売経営のビジネスモデル>>(省略)

 

 近年、成功を収めている「個店経営」と呼ばれているモデルは、図表2の右列の経営形態である。本部による集中仕入れだけでなく、部分的に店舗別・エリア別の商品調達をMDに組み入れる。商品もオペレーションも、場合によっては店舗デザインまでも、地域別・個店別に調整の幅を持たせる。
 この経営モデルにおいては、機能性一辺倒の顧客対応から脱して、従業員の自在な接客対応を業務システムに組み入れることが大切になる。顧客データや販売情報、AI(人工知能)の技術は、より快適なショッピングを支援するためのツールとして活用される。今年6月に起こったアマゾンのホールフーズ買収劇は、食品小売業が変わる予兆でもある。

 

 <皆が集う食卓、植物由来の食材>
 最後に、10年後の食卓と食材の未来を透視してみたい。以下は、筆者の予感である。73年のオイルショック後に、女性の社会進出と核家族化が進行して、わたしたちの食生活は簡便になった。買い物は近くで手短かに済ませ、食事も個食がふつうになった。結果として、食費に占める中食・外食の比率が高まり、スーパーも総菜に力を注いだ。
 それでは、未来の食卓はどうなるのか?筆者は、ふたたび食事を皆が集って食べる時代が戻ってくると考える。そのとき、食品スーパーは食材を調達するだけの場所ではなく、食材を加工する場所であり、レストランや食堂のように店内で調理されたデリカなどを選んで食べる場所に変わると予測する。未来のスーパーは、食べることに関わるすべての機能とサービスを提供する場所に変わる。食品スーパーマーケットは、レストラン併設の複合業態に変貌を遂げるだろう。
 二番目に、スーパーで提供される食材についてである。今年8月に、ドイツを旅行する機会があった。驚いたのは、ドイツ人の約10%がベジタリアンであることを知ったことである。動物由来の食べ物を一切口にしない「ヴィーガン」が、ドイツ人の1.2%もいる。ベルリンから、菜食主義者専門のスーパーが誕生している。それも、いまや二けたを数える。
 日本でも、近い将来、ベジタリアンやヴィーガンが増えると思われる。かれらの食事は、植物由来の素材が主体になる。こうした人たちの増加は、動物愛護といった倫理的な理由だけでは説明ができない。アレルギーや摂食障害(グルテンフリー、ラクトフリー)を必要とする子供たちが増えているからである。その点からいえば、「医食同源」を基礎にした食品と薬品の提供(複合小売形態)が、もしかすると近い将来、世界中で登場するかもしれない。

| Kosuke Ogawa | 10:04 | - | - | pookmark |

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